発注者利益・コスト・スケジュール
一般的に設計者は「狭義のデザイン=最終成果物としての形態(形・色・質感)」のみに偏る傾向にあり、建築主も、計画・設計当初はこのデザインのみにその判断をゆだねる傾向にある。結果として、予算・工程・使い勝手についてトラブルが発生する傾向にある。ここで、登場したのが、建築主と設計者を繋ぐ仲介職能としてのPMである。具体的に言えば以下の3点である。
- 経営的視点で発注者の建設行為による利益の分析に協力し、建物建設の目的・目標を的確の定める計画決定に協力すること。
- 建設行為による利益の最大の要因は、建設費であり、最大の使命ともいえるのがコストコントロール
建設行為による利益とコストコントロールは、スケジュールからの影響が大きく、スケジュールを予測し管理する。
上の1.2.は自明の利である。上の3.の理由は次の2点であることをを指摘しておく。
- 建設行為による利益では、現金割引法による施設投資評価(正味現在価値法NPV:Net Present Valueや内部利益率法IRR:Internal Rate of Return)において、スケジュールは、利益に直接影響を及ぼす。
- 工事のスケジュールの延長は、仮設工事の直接的影響の他、人件費の増加による潜在的な工事費の増加要因である。
2者の利益・リスク・契約形態
米国でPMが発達した信の理由は、工事費リスク管理の徹底と工事契約形態にあった。米国では1970年第半ば以降、国内の建設工事高がGDPの10%を下回り、建設業者の淘汰と、徹底したコスト見直しがおこなわれてという。
ここで建設費の構造を見れば「建設会社の工事費=Σ(各プロジェクトの工事費+各プロジェクトのリスク費)」となっており、「建設会社の利益=Σ(各プロジェクトのリスク費)」となっている。すなわち、建設においては予測しがたい要素が多々含まれており、そのリスク費がプロジェクトごとに含まれている。但し、全てのプロジェクトにリスクが発生するかというと、そうではなく一部に限られ、一部リスク発生プロジェクトとリスクを発生しないプロジェクトの一部が相殺され、残りリスク費は建設会社の利益に自動的に転ずるのである。
一方、同様の構造が、プロジェクト単体の工事費にも当てはまる。
- 「工事費=Σ(各専門工事の工事費+各専門工事のリスク費)」
- 「工事利益=Σ(各専門工事のリスク費)」
つまり、「リスク費」は通常一部の工事にのみ発生し、請け負った建設会社は、「Σ(各専門工事のリスク費)」が常にプラスとなり、利益が自動生成される。
ここで、米国においては、建築主が、専門工事のリスク費なしの金額で、直接各専門工事を発注し(「分離発注」という)、今まで利益に自動生成された「各専門工事のΣ(リスク費)」の減額を試みたのである。但し、建築主が、直接各専門工事を発注する専門知識と経験がないので、その業務を第3者に委託する。それがPM((Project Manager)=プロジェクト全体を俯瞰する設計者に近い立場)とCM((Construction Manager)=工事元請管理者に近い立場)の業務が発生する。それがPM/CMの始まり。
したがって、PM/CMを委託し、「分離発注」の工事発注方式にすると、総合請負発注形式に比べ、下の③式のようなコスト削減となる。
- PM/CM「分離発注」方式よるコスト減={Σ(各専門工事のリスク費)}-{一部専門工事のリスク発生費+CM委託費}
- 但し、CM委託費は、総合請負発注形式の諸経費(=一般管理費(利益含む)+現場経費)で相殺される。
これがPM/CMの始まり。そして、本来の意味である。