メリット4.原価公開(オープンブック)のコストダウンも可能
3D・BIMの設計の2つのメリット
- 正確で間違いのない設計
- 設計見積ができる
を突き詰め、コストダウン、アカウンタビリティー、デューデリジェンスを追求すると、原価公開(オープンブック)方式に行き着きます。原価公開(オープンブック)とは、施工業者が、下請けへの発注支払い金額や資材の購入金額を、発注者及び発注者の設計監理委託者である設計者に、公開する方式です。
従来の見積は、「単価×数量」の総和で、単価、数量のいずれも、論拠がある数字でないことは前に指摘しました。見積には、「単価×数量」の総和のほかに、諸経費が含まれています。諸経費とは、「現場経費(工事現場の管理経費)、一般管理費(本社の管理費用・経費・利潤)」が含まれています。しかし、この諸経費は、工事費のせいぜい10%以内で、施工者の利益の出る数値ではありません。然るに、どうしているかといえば、この利潤を含めた諸経費は、工事費=『「単価×数量」の総和』にばら撒かれているのが現状です。このように考えると、工事見積の内訳は、論拠のない、非常に不確定なあいまいな数字が並んでいることになるのです。
一方、従来の一括請負形式では、施工業者が、下請けへの発注支払い金額や資材の購入金額を一切提示する必要はありません。引渡しに提示されるべきは、設計図書(設計図)に示された内容とおり、すべからく完成するのを確認するのみです。(見えない場所も設計図とおり作ったという証明も執拗ですが・・・。)請負契約とは、民法631条「請負は当事者の一方がある仕事を完成することを約し相手方が其仕事の結果に対して之に報酬を与えることを約するに因りて其効力を生ず」というものだそうです。したがって、引き渡す物に対して報酬を支払、その製作過程がどうであろうと、さほど問題ではないとのことなのでしょう。したがって、見積書の総額と引き渡すべきものの製作費用の差額こそ、企業努力による利益なのだとも言えるのでしょう。
しかし、最初に交わした見積書の金額が、果たして適正なのかといえば、前に示したように、はなはだ疑問です。そこで、出てくるのが、原価公開(オープンブック)方式です。
前に、諸経費=「現場経費(工事現場の管理経費)、一般管理費(本社の管理費用・経費・利潤)」の一部が、工事費=「単価×数量」に、バラ魔からていると指摘しました。その要因としては次の点が考えられます。
- 日本の商慣習から人件費を多く含む諸経費が、発注者側に認められにくい。
- 設計施工一貫では、日本の商慣習からら人件費を多く含む、設計費が、発注者側に認められにくい。
- 工事費にはリスクが多く存在し、全ての工種にリスクを含めている。
さらに、「各種工事・及び工事費に見込まれるリスク」とは下記があげられます。
- 設計図間の不整合により発生する追加工事。(2次元設計では、図面間調整型のため、かなり多く発生します。)
- 設計図と見積書の意図の食い違いによる追加工事(設計図は設計事務所、見積書は施工者が行うため、発生しがちです。設計施工一貫でも、部署が違うため、ないとはいえません。)
- 発注者の指示による追加工事。(設計図では理解できなかった等に理由で、追加が発生する)
- 土工事の地中障害障害物等予測し得ないもの
このように、工事費に、諸経費・設計費の不足分と、工事のリスク費が含まれている実体が見えます。さらにリスク費においては、本来設計が十分であれば回避できるリスク費と、工事そのものに含まれるリスク費にわけれれると考えます。
米国におけるPMの発展の契機となったのは、工事そのものに含まれるリスク費を、発注者に明示し、コストダウンを図るのが目的でした。つまり、米国においても、各工事に過剰な工事そのもののリスク費が計上され、リスクが発生しなかった際、とはいえ多くは発生しないのですが、それが施工側の利益となっていたのです。そこで、各工事の工事原価を公開し(オープンブック)、それをPMr(プロジェクトマネージャー)が管理し、工事によってリスクが発生した場合は、発注者が負担する。これによって、未発生のリスク費のコストダウンが図れるというわけです。この場合、欧米のように間柱一本に至るまでしっかりした設計をし、発注者はその費用を負担する必要があります。さらに、施工者の利益を含めた諸経費も発注者が担保しなければなりません。
一方、日本の現状はどうでしょう。「単価×数量」の工事費には、工事そのものに含まれるリスク費はもとより、設計図間・設計図と見積書による不整合により発生するリスク費が含まれています。さらに、諸経費・設計費の不足分を含めることに工事金額の詳細はより不明瞭なものとなっているのです。
ここで、3D・BIMの設計によって、
- CG・アニメーションで設計確認
- 正確で間違いのない設計
- 設計見積ができる
と、上の3つができるならば、その上で掲げた「各種工事・及び工事費に見込まれるリスク」のうち
- 設計図間の不整合により発生する追加工事。
- 設計図と見積書の意図の食い違いによる追加工事
- 発注者の指示による追加工事。
と、上の3つの項目のうち多くが解決できるのではないでしょうか。このように、
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3D・BIMの設計によって、設計に内在するリスクを回避
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工事そのもののリスク費を開示し、不要なリスク費を削減し、必要リスク費は発注者が負担する原価公開(オープンブック)方式の採用
が、コストダウンに繋がる期待されるのです。
一方、欧米式の設計施工分離、さらにはPM方式よりも、設計施工一貫の方が、中間経費がかずられ、施工会社の技術力も発揮され、コストダウンが図れるという考え方もあります。しかし、アカウンタビリティー、デューデリジェンスの視点からは、いかにも、不明快です。さらに、3D・BIM設計による設計労力の省力化も考えると、より公開性の高い原価公開(オープンブック)方式が、コストダウンに有力な方法であることは間違いありません。
(蛇足として)
さらに進めば、いわゆる建設業界という「どんぶり勘定」の中から、利益を生み出す従来からのイメージから脱却して、建設という行為の過程の中で、「営業・企画・設計、建設管理、建設労働という人件費(知的労働・肉体的労働)の割合がその多くを占め、かつ、その過程が、ものを製造するのみでなく、建築・都市・宇宙船地球号という環境(エコ)社会を築く価値の創造であることを明示する」ことにより、建設行為=建設業が、「知的サービス産業」へと、転換すべきなのではないかと考えています。