ラスキンの建築批判と今日的意味
1.時代の新しい局面
時代が新しい局面に入るとき、社会は大きく変革し、発展と混乱と軋轢が生じる。150年後の今日から見れば、時代が近世(Pre ModernもしくはEarly Modern)から近代(Modern)へと変わる社会の大変革期に、同時に都市・建築が変化と混乱しいまだその方向性が見えない時代に、ラスキンは、明日の建築のあり方を批判的に考えた。中世への回帰を望み建築モダニズムの本流から一見外れたように見えるラスキンの建築批判を、150年前のラスキンの時代と同様、新たな大変革期とされる今、改めて21世紀の都市・建築を考えるという意味で考え直す。
2.地球環境と「ロボット化=Re- Programming」
西欧では、近世(Pre ModernもしくはEarly Modern)から近代(Modern)への転換点は
- 産業革命(1770頃)
- フランス革命(1789)
- アメリカ独立(1776)
とされる。つまり①機械生産②自由と平等③自己相対化の精神を獲得したことである。同時に、急激な社会の変化は混乱と軋轢を生じ、近代(Modern)の矛盾があらわになった。それは①大量機械生産による粗悪品の氾濫②人口増加人口集中による大都市の発生とその環境悪化・スラム化である。また政治的には国粋主義と植民地に向かう。このような状況では必ず前時代(中世・ゴッシク)への回帰運動が生じる。この主要な運動が
- 工芸では①W.モリスによるアーツ・アンド・クラフツ運動であり、
- 建築では②ゴッシクリバイバルであり、
- 都市では③ハワードによる田園都市構想
となる。ここで、ラスキンは「建築の七燈」を著しこの回帰運動の精神的支柱とされた。この回帰運動をより単純に言えば、大量生産とコストダウンによる質の低下を、歴史的に回帰することにより解決しようという試みであるが、この方法自体に過去では近代(Modern)という未来を乗り越えられないという矛盾を抱えていた。これを乗り越え大量生産・コストダウン・質を満足させたのが「モデルとしての機械」の概念である。つまり
- 目的の明確化
- 合目的構造主義
- 普遍的作動能力
を持ち合わせたものをデザイン(Design)するもしくは組み立てる手法の確立であった。建築では機能主義、都市計画ではゾーニング、思想的にはプラグマティズム(功利実用主義)というものである。これにより19世紀のブレークスルーが果たされ20世紀の手法が確立された。しかし、21世紀を迎えた今、この手法にも大きな矛盾が見えてきている。20世紀機械モデルの矛盾は2つである。
- 大量生産により人間の活動規模が拡大したため、20世紀機械モデルの合目的遂行以外に資源・マーケットも有限であること地球環境を考慮しなければならいこと(外的要因)。
- 20世紀機械モデルでは「機能=Programming」が明確でなければならないが、電子化・情報化が進み、目的が「ロボット化=Re- Programming可能」の様相を呈していること(内的要因)
である。
3.有限の1回性のモデル
ところで、ラスキンの思想を精査すると歴史回帰の運動だけでは、評価できないことが見出される。ラスキンは「建築の七燈」で建築の性質を、
で表現している。特に美については
- Vital Beauty
- Mechanical Beauty
に分けている。これは古代ローマの建築理論家ヴィクトルヴィウスの
- Venustas(美=悦び)
- Firmitas(強=耐久性)
- Utilitas(用)
と通ずるところも多い。ただ特筆すべき点は、建築の意味を「時間」「場所」というファクターで捕らえなおしていることである。ラスキンの時代、急激な都市化により教会の増改築・修復(Restoration)の方法についてG.G.スコットとの議論ともなったが、ラスキンは、過去の建築・教会を今ある姿で、そのままの姿で守りつづける姿勢を崩さなかった。つまり、建築の持つ意味の中に「時間」「場所」の中に存在する
を見出しているといえる。これがラスキン再評価の主要な点であり、20世紀機械モデルの忘却していた点といえる。
4.DNA情報の進化体モデル
目的が「ロボット化=Re- Programming可能」な今、20世紀の普遍的作動能力=無限複製機械モデルから、無限目的のための(ラスキンの起想した)『有限の1回性のモデル』への手法へとシフトしているといえる。ここからは私の推論勝手な創造となるが、19世紀同様歴史回帰だけでは明日のモデルのブレークスルーは計れないとすると
- 有限環境・Re- Programmingに対応した
- 無限目的のための『有限の1回性のモデル』
を創出するための具体的手法が求められる。さらに勝手な想像であるが、建築も「時間」「場所」の中に悠然と存在しつづけることはない、常に
- 目的のために変化し続けながらも持続可能な『DNA情報をもった進化体モデル』
かな?と思いをはせる。