プロジェクトマネジメントPM講座
BSI講義要約 

新しいファシリティマネジメント

講義日:2003/12/3 講師名:中津 元次

1. 運営維持の施設投資評価
1.1 ライフサイクルマネジメント(LCM)

ライフサイクルマネジメント(LCM);LCMとはファシリティの企画・設計・建設・運用・解体までの生涯の企画・管理を行うことである。つまり、ライフサイクルコスト(LCC)のバリューエンジニアリング(VE)、さらに言えば効果・満足度・建築寿命の最大化とコスト・エネルギー・環境負荷・リスクの最小化を目指すといえる。

1.2 ライフサイクルコスト(LCC)

LCCとは建物の設計・建築費などの初期投資と、運用開始からのファシリティコスト・改修投資などを含めて建物の一生涯に必要な費用を言う。一般的に運営維持費(ファシリティコスト+改修投資)は企画・計画・建設費の4~5倍とLCCにおける運営維持費の割合は大きいい。また、施設の30年毎建替モデルと長期保全モデルを100年後で比較すると、460:244とLCC差は2倍近い。したがってLCMには「ファシリティを良好な状態に保ち長寿化を図る」FMの役割は大きい。

1.3 LCMのプロセスとFacility Condition Index(FCI)

LCMのプロセスは

  1. 長期LC計画診断
  2. 不具合評価
  3. 修繕改修長期戦略
  4. 予算配分⑤実施⑥記録

のルーティーンで行われる。この中で②の評価、③の目標値、④の評価の指標として有効である。

  • FCI(残存不具合率)=残存不具合額/施設複製価格
  • (FCIが少なければ良好。米国では5%以下が良好、10%以上が劣悪)
  • 残存不具合:5年以内に修繕更新すべき不具合(改良・増築は含まない)
  • 施設複製価格:現時点で新築する場合の再調達価格(当初建設費を建築物価指数で調整、概算で可)

以上FCIの効用は

  1. 経営者・予算担当者に理解しやすい
  2. 多数の施設群・全施設の不具合状況が用意に判断できる
  3. 施設間・施設群間の不具合状況が容易に判断できる
  4. 修繕改修費の予算規模を論理的に定まられる

ことである。不具合と修繕改修費の原理は「期首残存不具合+純増不具合=修繕改修費の累計+期末残存不具合」である。これとFCIの関係は図1~3に示す。

図1 不具合と修繕・改修費の原理
図1 不具合と修繕・改修費の原理
図2 不具合と修繕・改修費の累計例
図2 不具合と修繕・改修費の累計例
図3 修繕改修費とFCI(残存不具合率Facility Condition Index)の例
図3 修繕改修費とFCI(残存不具合率Facility Condition Index)の例

また、建替指標としては「ニーズ指標(Needs Index)=(残存不具合+改修費+改良費)/複製価格」=FCI+リニューアル指標」を用いる。米国ブリガム ヤング大学では、これが75%を超える場合建替えの指標としている。

1.4 LCM事例研究‐米国海軍横須賀基地

ここでは92年から94年に不具合が4倍に増加、120億円に達する。720施設中133施設を対象に

  1. ①データ収集(半年)
  2. ②診断と報告(3週間)
  3. ③分析施策検討
  4. ④長期保全計画

が行われた。調査は

  1. 機能性
    1. 機能不順
    2. 人命に関るもの
    3. 快適性
    4. 延期可
  2. 重要度
    • 高、中、低

と分けた。不具合は$52m.に及び重要度高だけでも$37m.となった。しかし、重要度の高を「高高と高」にわけ、高高と高の機能性の①②のみでは$16.5m.となり、効率的な修繕施設を見つけることができる.また、$5.8m.を毎年の修繕改修費に当てた場合FCIは年1%増大したが、前の分析に着目し、最初の三年間に$3.5mの修繕改修費を当て、以降年$5.5mとし、20年平均で$5.8m.の費用を見込んだ場合FCIは4.5%の一定の値を示した。この事例は、施設の「的確な分析」に対する「的確な施策」が、LCMにとって重要であることを示す好例である.

 

2 経営とファシリティマネジメント(FM)
2.1 知識社会

FM;P.F.ドラッガーは「ネクスト・ソサイエティ」でコンピューターとインターネットの出現による社会を知識社会とし

  1. 知識が資源
  2. 知識ワーカが企業と同格
  3. 知識ワーカがより専門領域に
  4. 継続的自己学習

をその特徴に上げている.FM的視点に立てばIT・人事・財務を統括的に処理するCorporate Infrastructures Resource Management(CIRM)が求められているといえる.キャプラン教授(ハーバード大学)ノートン社長(ルネッサンス・ソリューソン社)が知識社会とナレッジワーカーに提唱した理論の「バランスコアカード」は

  1. 財務
  2. 顧客
  3. 内部プロセス
  4. 学習・改革

の視点を組み込んだ戦略マネジメントの業績評価システムである.まさに、この視点こそFM業務にもとめられている視点である.

2.2 まとめ

「失敗の本質」(1983中公文庫)に描かれた日本人の特質はいまだ破られていない.的確な分析・明確な目的・包括的なシステムの構築の視点は、常に忘れてはならない. 


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