1. 意匠計画者のコストコントロールの最重要点
意匠計画者がコストを管理するにあたり最も重要な点は次の3点である。
- 概算を寝かさない
- 企画段階にて概算計画を策定し、実施設計完了時まで概算見直しを行わない場合がある。このような場合、基本設計・実施設計段階で計画建物の要求条件・グレードが設計者の認識のないまま変更され、実施設計完了後の見積時に、当初の概算と大きな開きが発生する場合がある。これは、実施設計完了後の大幅な工程・計画・設計変更、最悪の場合プロジェクトの中止となる。このような事態を避けるため。少なくとも実施設計に入る前に、概算の再確認が必要である。実施設計時も仕様の管理が重要である。
- 大きくはずさない
- 以下のような場合、大きくはずす可能性がある。これも前述のような最悪の事態をもたらす。冷静な意匠設計者の判断と経験が必要である。
- 他物件の特殊な事例などを引用し過剰な期待を込めた場合
- 設計が進むにつれ見積要因項目が増加・明確化するのが経験的に一般的であるが、概算時にこの見積増加要因を見込まずシビアな単価設定を行った場合
- 絶対はない
- 見積は設計概算・設計見積は、社会的公平性と技術的判断を盛り込んだ技術資料でしかない。最終的には、建築主と施工者の自由な契約取引であり、経営環境等により政治的判断が下されることもある。最終契約金は、様々な要因により巾がある外を認識しておかなければならない。しかしながら一般的には設計見積は、実際の工事請負契約金の±5%(少なくとも10%)以内に収めることが常識といえる。
2. 設計業務過程での要点
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公官庁と民間の差
- 公官庁では工事費内訳明細書資料として、数量積算調書・専門工事業者見積徴集(比較書)が求められることである。民間では一般的に内訳明細書作成のみである。
- ? 総事業費の構成
- 建築工費のほかの費用も含め、総事業費を求められる場合がある。建築工事費以外の費用とは以下のものである。建設経験の少ない建築主には特に説明を要する。
- 建築工事費以外の費用
- 税金等
- 土地固定資産税
- 都市計画税
- 建築不動産取得税
- 事業税他
- 特殊要素
- 別途工事
- 予備費
- 備品
- 地中障害物撤去
- 近隣対策費
- 各種設備引込負担金
- 本受電後の電気料金
- 各種設備
- 造成工事費
- ボーリング等調査費
- 公官庁等指導事項対策費
- 設計管理費
- 消費税他
3. コストコントロールと見積内訳区分
- 工種別
- 公官庁・民間建設会社で一般的に用いられる。
- 部位別
- 部位別区分を用いると概算計画の作成・分析に有効である。分類は、以下の大科目と中科目に分類できる。中科目の下に工種別科目がぶら下がる構成を日建設計では採用している。概算へのデータの蓄積を考えると、民間でも中科目は別として大科目分類は有効に思える。
- 分類
- 直接仮設
- 土工・地業
- 土工
- 地業
- 躯体基礎
- 上部躯体
- 特殊躯体
- 外部仕上屋根
- 壁
- 開口部
- 天井
- 雑
- 特殊仕上
- 内部仕上
- 床
- 壁
- 開口部
- 天井
- 雑
- 特殊仕上
- 家具・備品
4. 建築コストの変動要因
設計図書作成過程で、及び建築主・施工者との交渉を通じて、コストコントロールを行うためには、コストの変動要因を明確に説明できることが大切である。
- 変動要因
- 地域・土地要因
- 計画・設計要因
- 発注要因
- 地域・土地要因
- 交通網の発達と工業化製品の全国的標準化により、地域差は少なくなっている。むしろ地形・地質・繁華街などの都市的要因のほうが影響が大きい傾向にある。
- 計画・設計要因
- 地下計画の影響は大きいので十分な配慮が必要である。形態的には立方体に近いほうが外装仕上面積が少なく安価な傾向にあること、PC・RC壁部分よりもサッシ・CWのほうが確実にコストアップになること、構造スパンの影響などは常識として把握する必要がある。
- 発注要因
- 次の3つの要因で差が出る。但し、設計者の業務責務の範疇を考えると、設計段階でのこれらを評価は慎重にすべきである。1.政治的要因とは「1.意匠計画者のコストコントロールの最重要点の3.絶対は無い」で指摘したような、経営環境と政治的判断によるものである。
- 政治的要因
- 地下逆打ち工法などの工期・工法
- 一括・分離・コストオン方式などの発注形式
5. 設計実務での対応
設計実務では、「 コスト資料の整理」と「概算見積手法の確立」がひるようである。
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コスト資料の整理
- 物件ごとに概要・部位別コスト等自社資料の整理が概算に役立つ。
- 概算見積手法
- ユニット・坪単価の統計的手法
- 部位別・概算数量の積み上げ方式
- 上の双方からの検討が必要である。一般的には企画段階は「1.ユニット・坪単価の統計的手」法、基本・実施段階では徐々に「2.部位別・概算数量の積み上げ方式」に移行する。