講義日:2004/5/19 2004/5/26 講師名:竹橋 直久
1. 建築ストックへの関り
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所有者のbehavior( 習性)
- 「立派な建築が成ったものだ。それにしても、経費のかかる建物を建てたものだ.」(元東京都知事・鈴木氏)の意味するものは、「維持管理の視点の希薄さ」「プランニングの段階でよく考えないと‘つけ‘は将来に及ぶ」ということである.
- 期待される施主の姿勢
- 欧米では「ビルを格付けし、その維持のために維持計画が重視」される。わが国でも外資的視点から長期的展望が求められている.つまり今までの思考は、下記の3点であった。
- 「①短期に建設・資金回収
- ②レンタブル比効率偏重主義
- ③後追い的保全」
- 今後は、次の3点が思考されるべきである.
- 「①計画的保全
- ②長期展望
- ③社会的視野=施設のライフサイクルマネジメント関与
- さらに、以下の、社会的視点が発注者に求められる.
- 「建築の社会性の認識=社会資本の保全と都市景観に対する責任」
- 建築家に対しての期待
- 平成4年BELCA調査によると、以下の4点がが設計者に求められている.
- 「①ランニングコストのかからない設計
- ②維持保全の配慮
- ③空調能力・操作への配慮
- ④電気容量・スペースに余裕を持った仕様」
- LC設計のphilosophyとして『建築が働く人々にどう機能し、時間経過に対し同対応してゆくかを考えたい』(横浜ランドマークタワー設計者ヒュー・スタビンス)に象徴されるような、次の点がが求められる.
- 「建築物性能の長期性確保=時間軸のある設計の4次元化」
- Logistics(兵站・後方支援)的な視点で
- 設備システム・部品の供給体制が消失すると、結果として建築寿命の短期化の要因となる.社会とのかかわりの中で生産供給と調達体制あり方にも注意すべきであろう.
2. ライフサイクルコスティング
- LCCもしくはLCCing
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図「氷山のLCC」 |
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図「建物のLCC曲線」 |
- LCC(ライフサイクルコスト)とは「建築がその生涯に抱える総費用」である.しかし建物は長期間に渡り運用され、企業の経営に関る理由で業務の変革・環境整備・施設設備の改修がなされる.常に変化を管理するマネジメント的適応力が求められる.つまりLC.Costという静態的イメージよりLC.Costingという動態的イメージでとらえられるべきである.つまり右の2つの図「氷山のLCC」「建物のLCC曲線」が常に起草されなければならない.
- LCCについての欧米人の発言
- 欧米においても初期建設コストの抑制にやはり関心。特にヨーロッパではメンテナンスコストが低いために目に見える効果が少ないことがあげられる.
- LCCのライフ設定は基準がないので自社のデータベースに基づく.30年100年かの選択が重要である.
- VEは機能保持が前提.改善案提示の際「建設コストの増加をもたらす場合もLCC削減が図られるのであれば受け入れる」(米国連邦発注機関VEハンドブック)とされる.
- LCCの可能性
- LCCの実務導入可能にするための視点は、以下4点である。
- 初期コストをとるか、ランニングコストをとるか。設計段階で明確にすべきである
- LCCは投資効果(価値)・効用も評価すべきである。つまり「基本性能」「合目的性能=快適性・デザイン性・フレキシビリティー・メインテナビリティー」「省エネ」「環境問題」「社会的評価=歴史的遺産・文化遺産」などである
- LCCは竣工後せいぜい15年から20年くらい.長すぎると意識が希薄になる.
- 動態的視点を忘れてはならない.
3. プログラミング
- Programmingとは
- 英国設計業界で生まれた概念で「設計作業の前段階で、発注者からの要求をきちんと設計与条件として設定する作業」と定義される.具体的には「性能」「コスト」「時間」の与条件を隠れた要求まで引き出し明確化する作業で、動態的なルーティーンでもある.また欧米では学際的な専門家の参画し各方面のノウハウが反映されることもある.下のの図のCRSS Architects Inc.の業務コンセプト図は、PM的設計事務所業務内容とProgrammingプロセスを端的に表現している.
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業務内容:助言・計画・設計・プログラミング・施設計画・資産マネジメント・建築設計 |
ルーティーン:計画→実施→評価→(計画→実施→評価) |
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- 品質
- 品質とは「建物の付帯性能」である。この付帯性能評価は以下の立場により異なる。
- オーナー
- 入居者
- ビル利用者
- 建物管理者
- また性能評価の例としてはなどが以下の項目があげられる.
- 耐震診断
- 機能劣化診断(耐久性・居住性・防災性)
- 設備機能診断
- 機能低下判定(高齢者対応・情報化対応・平面計画上の規模の陳腐化)
- 資金と時間
- プログラミングは動態的ルーティーンであるからコスト(資金)とタイム(時間・スケジュール)の考察は必然である.
- DFC(Discounted Cash Flow)によるLCC
- この資金を評価するにはDFC法=現在価値法(「将来見込まれるキャッシュを現在価値に割り戻して算出。投資額と比較して意思決定の指標を見出す」)が基本である.つまりa年後の現在価値Pa
- Pn=(1+e)ª¯¹×Q/(1+i)ª=将来価値×1/(1+i)ª (e:価格変動率 i:利率 Q:現在価格)
- となる.また、DFC法による評価方法には以下の2つがある
- NPV法(正味現在価値Net Present Value)
- 将来見込まれるキャッシュフローの現在価値と初期投資額との差で見る」/NPV=将来CF-初期投資額>0
- IRR法(内部収益率Internal Rate of Return)
- : 将来見込まれるキャッシュフローの現在価値と投資額の現在価値と等価となる割引率をおさえる/NPV=将来CF-初期投資額=0
- 1.2.は複利計算を要するが、便法として複利計算を回避した英国の概算様式を示す.
- 複利計算を回避した英国の便法概算様式
- LCC=LC1+LC2+LC3+LC4
- LC1:運用コストの総計=年間運用費×ライフサイクル期間
- LC2:維持保全費の総計=周期的維持保全費×ライフサイクル期間
- LC3:総支払利息の総計=年間利息×借用年数
- LC4:当初の建設コスト=建設工事費+設計監理費等+不動産取得費)
- 耐用年数
- 耐用年数については6つの視点で分類できる。
- 耐用年数(短期か長期か)
- 部位による違い
- スケルトンインフィル
- 法定耐用年数
- 公共と一般
- 道連れ工事(本来供用可能でもあるに関らず他の部品・部位の非供用により供用できなくなること)
- LC設計
- 建物の諸性能と機能的・経済的要求の調停がその意味といえる。情報環境の劇的変化がこの必要性をクローズアックさせているが、このような変化への調停が肝要である。
4. ライフサイクルマネジメント(LCM)
- LCM(Life Cycle Management)
- LCMとは、ライフサイクルコスティング・プログラミングにより、建築物の長寿化と良質な社会ストック形成を図ることである。
- 進行フェーズと目標
- 企画・基本設計・実施設計・施工・運用各段階でLCMの目標は異なる。各段階にて目標を明確にする必要がある。
- 作成時期と期間
- 維持修繕計画は竣工後25年程度までが妥当である。それ以上は予測効果減。
- 対象範囲と立案主体
- 立案・業務推進は、だれでもよい。専門的技術者としては以下の3つの職種がある。建物自体を扱うLCMの領域とそれを使う視点から考えるFMの視点の双方が重要である。
- 総合管理技術者(BELCA)
- ビルディング・サーベイヤー(英国)
- ファシリティーマネージャー
- LCMのための実務的視点
- 地域的視野・資金という社会的視点は、常に欠いてはいけない。特に日常的取り組みは重要である。設備部位ごと、建築部位ごとの改修計画の改修サイクル表等を作り、「データベース」「基準事項」を整理し、計画的な継続性ある実践が望まれる。
5. 新しい領域のワークスペース
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ハワード・ラインゴールド氏のワークプレースのイメージ |
- 変容するワークプレース
- プログラミングとLCA(Life Cycle Assessment)のアプローチは、ハワード・ラインゴールド氏の右図のようなワークプレースのイメージに代表されるような、新しいワークプレースを生み出す。
- 新たなLCMの意味
- 新たな時代のLCMの意味とは、下のLCM定義式の極大化と定義できよう。
- LCM=MAX[効用の集積/{生涯費用(LCC)=Σ(①地球環境負荷②資源使用量③エネルギー総使用量④投入労働量)}]
6. 蛇足 講義の感想
技術は完全ではない
- 『Philosophyなくして技術なし』
- そして『実践なくして意味なし』
という言葉に私は共感できた