1. 経験的病院計画の特徴
病院は、日本の建築計画学の中心に据えられ、吉武泰水と門下の伊藤誠・浦良一らにより確立された。その病院の設計最終目標は以下の2点であった。
大阪府立母子保健医療センターではホスピタルストリートに各専門病棟がウイング状に取り付き、病棟の拡大にはそのウイングの伸張が予期された.神戸市立中央市民病院では高層病棟でもISS(Inter Stationary Space)により病院を運営しながらの設備更新予期された.しかしながら、法的遡及・設計者の変更・社会的要求の変化で、前者の大阪府立母子保健医療センターでは増築に独立の別棟が建設、後者の神戸市立中央市民病院ではでは別敷地に建替えが決定された.このように病院は変化に対し計画通りにいかない局面があり、一方ではPM/FMの長期的視点が重要ともいえる.
2. 制度と課題
- 医療施設では以下の2つの法律が重要である。
- 「医療法」
- 「社会保険制度」
- 医療法では病院等医療施設の種種別規模が定義されており十分な把握が必要.
- 社会保険制度では、それにより医療報酬の多くは保険者(健康保険組合など)から審査支払機関を経て支払われるため、医療機関の収入に大きな影響を及ぼす.
- 現在の課題としては以下の4つが挙げられる。
- 医療の効率性
- 安心の確保
- 近代化と効率化
- 競争の働きにくい体制の改善
3. 地域医療計画
本の国民所得に対する国民医療費は、現在8.5%であるが、社会の高齢化・医療の高度化に伴い10年後には15%になると思われる.ドイツ・スイスでは10%程度であり米国の13.9%が限度である.現在日本の一般病床は126万床、人口1000人当り14.6床(欧米は4.1~5.6床)である.一方日本の一般病床平均在院日数は23.5日(欧米は7日)である.したがって「①医療の効率性」のためには、以下の4点が今後の地域医療計画・医療施設の方向となる.
- 病床数1/2(69万床)
- 在院日数1/2
- 実入院患者数同数
- 医療密度2倍(面積的には同じ)
下記はこの指針に沿った今後の病院の参考例である.
- 国立がんセンター
- 外来を充実した「通院型治療センター」。外来化学療法コーナーも設置.
- 藤岡総合病院付属外来センター
- 入院・外来を分離.8時間ホスピタルの基本的考え方.
- ヘルスサウス サージカルセンター(米国)
- 日帰り手術センター.内視鏡技術の発達により米国の手術の70%が内視鏡による影響が大きい.午前6時から午前中に手術を行い、午後はリカバリーセンターですごし帰宅する.日帰りが不安の場合ホテルのようなリカバリーケアセンターに滞在することができる。
4. 施設計画
上の「2.制度と課題」で挙げた課題のうち、施設でその課題解決に貢献できるのは、課題の2から4、つまり以下の課題である。
- 安心の確保
- 近代化と効率化
- 競争の働きにくい体制の改善
これらの課題のため下記の施策が行われている.
- 病院機能評価
- 第三者評価機関として「日本医療機能評価機構」が医療機関の機能評価を実施する.5点法で詳細項目が評価されインターネットで公開されている.結果として病院のランク付けとなる.建築にも大きく影響。例としてはプライバシー確保のカーテン・壁の有無により評価が異なる。長期的には療養型・介護型施設の評価にも拡大されると思われる.現在の認定率は84%である.
- 病院運営システムの設計
- 医療情報システム
- 物品管理システム
- 医療機器整備
- 運営マニュアル
- 500床の病院の場合運営費は年間100億円・人件費・物品・経費の割合はそれぞれ50%・30%・20%と言われる.通常物品管理システムにより10%の減額が可能であるため、施設計画上は③物品管理システムが重要である.また、病院のIT化(X線撮影読影のフィルムレス化等)・電子カルテ化も行われており、日本最初の例として出雲県立中央病院をあげる.
- 建設の手法-PFI
- PFIとは、国・地方自治体の性能発注所の基づき民間業者が資金調達・設計・建設・所有・維持・管理・運営を行い、国・地方自治体はこれらのサービスに対し事業期間15~30で民間事業者に対価を支払う.民間事業者の建設した建物・施設等の所有権は原則国・地方自治体に無償譲渡する.契約形態により次のように分類できる.
- BOO(Build own Operate)所有権譲渡なし
- BOT(Build Operate Transfer):運営後所有権譲渡
- BTO(Build Transfer Operate):建設後所有権譲渡の上管理運営
- BLT(Build Lease Transfer):建設後譲渡先にリースの上資金回収後所有権譲渡
- RLT(Rehabilitation Lease Transfer):老朽施設を改築後BLT同様の行為をする.
5. 病院建設投資と設計需要
現在恒常的建設・設計需要がある.その要因は以下の3つによる.
- 昭和30~40年の病院のリニューアル
- 第4次医療法改正の施設基準面積の拡大
- ゴールドプラン21(「高齢者福祉推進十カ年計画」)施設整備目標達成までの補助金支援
従来の設計業務自体は施設の複雑さにより収益力は一般の2/3であるが、企画調査・運営システム支援等PM・コンサルタント業務が拡大する傾向である.
6. 病院設計者として
近年の医療施設は奇抜・大きな空間・アメニティーを求めてきたように感じられるが、これが本当に良いのか再考される.今までの医者からの視点とともに、エンドユーザーである「患者の視点」、患者の病院に対する気持ちを十分考える設計が大切と考える