1. 高齢者福祉施設を取巻く環境
少子化による人口の減少と同時に人口構成の高齢化が訪れる.65歳以上の高齢人口は2015年には25%と推計される.この時点で高齢者住宅の必要量を高齢者人口の10%とすると200万戸必要.現在、療養病床を含めても100万人分で必要量の1/2と推測される.医療福祉系高齢者住環境施設は法的には以下のの3つである。
- 介護療養型医療施設
- 介護老人保険施設
- 介護老人福祉施設
以下に、上の施設の特筆すべき点を挙げる。
- 介護療養型医療施設
- 病院であり医療保険・介護保険がともに適用となる.
- 介護老人保険施設(老人保健施設:老健)
- 介護保険のみ適用であるが、医療法人の付帯業務とされ医療の範疇である.設置基準は「居室定員4人以下・居室は8㎡/1人以上.したがって構造スパンは6.5×7又は7×7(単位m)となる.一方急性病院でも単位構造スパンを2分割し個室化の傾向が多く(50床ナーシングユニットで民間50%公立30%国立20%の個室率)であり、この場合医療法基準を満たす構造スパン6.5×6では2分割し個室化することは難しい.さらに今後急性病院病床は減らす方針で、急性病院病床は療養病床・老健施設に変換する可能性も高く、病院計画においても注意を要する.また以前は4ヶ月の滞在期限があったが、今はなく介護老人福祉施設の予備群になりつつある.
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム:特養)
- 社会福祉法人が事業を行う. .設置基準は「居室は個室のみ・居室は13.2㎡以上・夫婦の場合21.3㎡以上・10人以下のユニットとする.
2. 介護保険と住宅改修
介護保険の目的は、病床が増えた理由に「社会的入院」があったが、住宅改修は、次の二つの目的がある.
- 「医療保険から分離」
- 「家族の介護を容易にする」
このため住宅改修に20万円まで費用の90%の補助金制度がある.但し次のような問題点がある.
- 20万円では改修費が不足
- 住宅改修業者のトラブル
- 設計料が対象にならない
施設利用の場合実費用で70万円/1人・月とされ自宅のほうが費用がかからず政策は在宅思考である.但し家族介護者が肉体的精神的に現実を許すかの問題も大きい.
3. 介護老人保険施設建設事業のプロセス及びケーススタディー
- プロセス
- 通常の設計以外の主な申請は下の表の通り。通常設計外の運営システム等コンサルティング項目も多い。
通常の設計プロセス |
設計以外の主な申請 |
基本構想 |
事前相談 |
↓ |
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基本計画 |
要望書(事前相談調書)提出 |
↓ |
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基本設計 |
補助協議書作成 |
↓ |
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実施設計開始時 |
補助協議書作成 |
↓ |
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実施設計 |
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↓ |
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確認申請 |
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↓ |
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工事 |
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プロセスと設計外の運営システム等コンサルティング項目 |
- 資金計画
- 補助金枠は縮小の傾向にある.工事費の建設単価は20~21万円/㎡.設計料は3~5%.コンサル・PMも必要である.また、開設後3か月分の運営資金も必要.これらを考慮し50人収容・100人収容の必要資金を算定するとそれぞれ5億4千万円・10億4千万円程度となる.
- ニーズ分析調査報告
- ニーズ分析調査の主な項目は下記の3つ。
- 要介護高齢者・高齢者患者の状況
- 競合施設調査
- 需要バランス分析
- 1.要介護高齢者・高齢者患者の状況は,人口分析が絶対的要素となる.特に高齢者は感染症が少ないため変動が少なく確実である.
- 2.競合施設調査.3.需要バランス分析は、介護保険財政と密接な関係があり地域ごとの整備目標を把握する必要がある.
- 基本計画書
- 主な項目は下記の3項目。
- 構想・計画方針
- 運営計画(職員・業務内容等)
- 施設計画(概算・構想図).
- 専門的知識を要するためコンサル・PMが必要である.
- 高齢者に求められる環境
- 日本の場合1日中寝巻き姿で過ごす事が多く施設臭の原因にもなっている.服を着せるなど社会的行為を通し社会との関係を維持することが求められている.
- 北欧と日本との違い
- デンマークでは高い税率による高度な高齢者施設により、入る権利が与えられていると言ってよく待ち望んで施設に入る状況である。以下の3つのの手法を用い社会との関係の維持が考えられている。
- 高齢者・障害者の集住化計画でも牧歌的雰囲気の街並みを考慮する
- 高齢者施設と一般住宅を混在させた形にする
- 障害者も介護を借りず生活できる設備用具を充実する
- ケアビレッジ構想
- 高齢者単身・夫婦世帯の急増
- 」高齢者対応住宅は全体の2.7%
- 」住宅での事故死の3/4が高齢者」
- 上の3つの現状を考慮して、欧米ケアシステムを参考にしたケアビレッジ構想を紹介する。建設プロセスは次のようになっている。
- 第1期は老人保険施設・通所リハビリ施設・グループホーム
- 第2期は通所介護センター・グループホームを建設.
- これらは牧歌的英国風の外観や施設に中庭を設け社会性の維持を考慮している.
- 第3期はケアハウス
- 第4期は高齢者住居群
4. 介護老人福祉施設建設事業
事業には、以下の作成・申請が必要である。
- 「老人福祉施設設立計画」
- 「社会福祉法人設立許認可等協議書」
この作成・申請は、要望書の段階から設計開始前2年程度要する.作業は設計のサービスの範疇では無理なほど作業量が大きく申請支援業務として別契約が必要.現在実現するのは1割程度.
5. 設計者として
身体的・精神的・経済的・社会的な高齢者の自立支援が最も重要と考える.