プロジェクトマネジメントPM講座
BSI講義要約 

多様化する建築生産方式と建築プロフェッション

講義日:2003/11/12 講師名:高橋 琢朗

1.建築プロフェッションの変遷

建築プロフェッションの意味も時代と共に変遷している。宮廷・帝政のためのお抱え建築家→(市民革命・産業革命を経て)→市民社会の代理人としての万能者:アーキテクト→高度成長により建築の目的は単純明解のためHow(いかに造るか)の時代では建築プロフェッションの内的分化=構造・設備・工法(建築例:霞ヶ関ビル)、のように変化している。そして現在Why(何のために)What(何を造るか)の時代となった。建築プロフェッションは再分化・専門家・コラボレーションに移行している。

 

2.建築家に対する顧客満足度(CS)

1992年英国のIRBA「プロフェッションの戦略研究」でショッキングな報告がなされた。CS調査で建築家は

  1. デザインにこだわり工費無視
  2. 工費・工期をマネジメントしない
  3. 傲慢でクライアントの耳を貸さない

とされた。このままでは建築家の存在は限定的になるとして

  1. 単純プロジェクトでの伝統的方法
  2. 複合大型プロジェクトでのチームの一員
  3. デザインビルド参加
  4. PMとしてのプロジェクト推進役

の4つの方向性を提言している。

 

3.経済環境の変化と建築生産方式の多様化

経済環境の変化:グローバル化は不動産価値概念を大きく転換した。

  • 所有→利用

へとである。

  • キャピタル・ゲイン(資産価値)→インカム・ゲイン(利用価値)
  • 土地価格→土地・建物価
  • 取引事例比較法→収益還元法

などのキーワードの変化がそれを表す。また、不動産投資信託(REAT)は資金調達方法・不動産の金融商品化のよい例である。デベロッパーもノンアセット方ビジネス=PM/CM・アセットマネージャー・プロパティーマネージャーの新しいサービスを展開している。これにはプロセスの透明化が求められる。一方、公共建築においても「顧客満足+合理的経営+透明性」が求められている。

建築生産方式の多様化:民間ではPM/CM方式の導入。また、ゼネコンによる一括請負契約の多いわが国では専門工事会社入れ替え方式も一手法と考えられる。CMnet入札・コラボレーション型総合受注体制も今後の方式として考えられる。公共においても建設工事方式としてPSC(Public Sector Comparator)算定・VFM(Value For Money)の基本的考え方に基づく「PFI(Private Finance Initiative)事業」を導入。設計者選定方式では「公開選定型プロポーザル方式」「QBS(Qualification Based Selection)方式」を導入。また設計監理業務を分離し設計業務・工事監理業務の分離発注の導入。プロセスの透明化の圧力に、このような建築生産方式の多様化がなされている。

 

4.建築プロジェクト環境の変化とマネージメント

建築プロジェクト環境は次の点で変化している。

  1. プロジェクト要求条件の高度化・複雑化
  2. プロジェクトメカニズムの多様化・複雑化(事業主体、関係法制度、都市・建築法規制、発注方法)
  3. 説明責任・プロセス透明性の追求(事前説明、設計者・施工者選定プロセス、コスト)
  4. 設計者能力の限界と設計業務監理の必要性

以上の4つの視点からである。このような高度化・複雑化・多様化は、従来の事業者(発注者)責任=マネージメント業務の重要度が増していることを意味する。つまり

  1. プロジェクト策定・企画力
  2. 業務運営・管理能力
  3. 技術的・費用対効果等の判断・意思決定能力
  4. 発注・調達・契約調整能力
  5. 利害関係者への説明責任能力
  6. プロセス管理・リスクマネージメント能力

これら6つの能力がマネージメント業務能力といえる。

つまりこれらは、現段階ではPMrに求められる応力でありPMの業務ともいえる。具体的業務内容の定義については「建築家の業務・報酬」(JIA2002年9月)、「JIA-PMガイドライン」(JIA2002年9月)を参照のこと。

 

5.PM/CMからヴァリューマネージメント(VM)へ(日本設計の提案)

PM/CMよりより広義のマネージメントととして『ヴァリューマネージメント(VM)』を提案する。『ヴァリューマネージメント(VM)』とは「広義のヴァリューエンジリアリング」と「プログラムマネージメント」からなる。前者は

  1. 価値の「創造・運用・維持・更新」を目指すAM.FM.Py(プロパティ)M業務
  2. 総合的価値を最大化する技術・手法の追求
  3. アカウンタビリティと透明性の確保

の3つを目的とする.後者はいわゆる発注者業務支援で

  1. 目的・目標の管理
  2. 実現方策の管理
  3. 情報管理

の3つである.建設環境を取り巻く高度化・複雑化・多様化の波に対して、より包括的に行う発注者業務支援が『ヴァリューマネージメント(VM)』であり、日本設計の提案・戦略と考える


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