伊藤忠太論
建築史家の大御所で築地本願寺の設計者ぐらいの知識しかない私が、そのスケッチの迫力に見せられたのは、「96アーキテクチュア・オブ・ザ・イヤー展」(池袋)のひとつのコーナーであった。ルドゥー、ソビエトアバンギャルド後期の大画面のパースにも引けを取らない、刺激的なスケッチであった。建築史家・設計者の域を越えた、芸術化的領域にも達する奥行きの深さが印象的であった。
しかし、今日の解説で建築界の悪しき伝統の一歩も踏みだされたのではないかと感ずる。それは『「アーキテクテュール」は「世の所謂Fine artに属すべきものにして、Industrial artに属すべきものに非ざるなり」』と主張し、コンドルらにより輸入された意匠・構造・工法・積算すべてを総合化して組み立てることを理念とするイギリス流建築家像を、建築の本意は意匠にのみ存在するとして、建築家の役割・設計の意味を見事に解体したことである。これにより、各部門の選択専門的な研究が発達したことも事実であるが、一方、建築家・建築設計者としての最大の責務としての総合化(実務的で学術的研究にはなりにくい)の作業が、その責務から見落とされ意匠のみに偏重したことは、今日の建築家・建築設計者の社会的位置付け・役割に決定的影響を与えたように思う。日本の建築設計者の役割が欧米と大きく異なる理由に、すべてを取り仕切る大工という伝統的職業・施工形態の影響も指摘されるが、伊藤忠太のこの言動が、意匠偏重ともいえる日本の建築家の役割を決定付ける、精神的支柱になったのではないかと思いをめぐらせた。
リーダーシップ
さて、本論に入るが、今後のマネージメントがリーダーシップを問われる中で、リーダーシップを考察し、21世紀型企業を分析した上で、マネージメントの将来を展望するものとする。
リーダーシップを丸山真男は「政治学1960」で、その資質で考えるならば『職業のしての政治家』でマックス・ウエーバーを引用し
の3つを上げる。また、行動の方法を類型化するなら
と3つを上げる。しかしリーダーシップを機能的側面で捕らえるなら、リーダーとフォロアーの相互の関係であり、リーダーの責任・能力ははフォロアーの問題・課題でもあるとした。
経営のパラダイム
一方経営のパラダイムは、マネージメントからリーダーシップとシフトしている。計画→創造、組織→編成、調整的→積極性。つまり、「確実性と秩序」⇒「改革」の経営シフトである。
「改革」に向かう21世紀型企業像を
- 組織
- サービス
- 人的資源
の3つで捕らえてみる。
1.組織
任務・文化・組織・社員の相反する機能を戦略で組み立てる。戦略は目的を明確にしたビジネス単位で、常に変革可能でなければならない。そのための任務は顧客中心主義、文化は常に開放性をもち、組織は分権的、社員は起業家精神とチームプレーが融合。改革型組織の1例である。
2.サービス
基本としてマーケティングの基礎4Pは
- Product(商品)
- Place(場所)
- Promotion(営業)
- Price(価格)
であり、サービスの特質4Iは
- Intangible(無形)
- Inseparable(分割不可)
- Inconsistent(可変)
- Inventory(備蓄不可)
とされる。そしてサービス3Pとは
- People(人)
- Physical Evidence(提供)
- Process(過程)
とフィリップ・コターは「マーケティング・マネジメント」で定義している。そのうえで21世紀型サービスの特徴を5Pとして
- Partner(相手はCustomer→Client→Member→Partnerとより個別的に)
- Participation(参加)
- Productivity(生産性)
- Passion(情熱)
- Philosophy(理念)
の5つ付け加える。これは今後、相手個々の満足度を高めるためには、サービスの質と多くの要素の満足度を高めることが求められている意味する。
3.人的資源
のような組織・サービスの変化に対し人的資源のマネージメント(Human Resource Management)はより重要性を増す。これにはヘルツバーグの「モチベーション理論」が最適である。Satisfiers(満足要因)=業績・認識・仕事→Motivation Factorsであり、Dissatisfies(不満減少要因)=給料・作業条件→Hygiene Factorsの関係となる。つまり、リーダーに対するフォロアーの価値への参与を感じさせることがHRMの最大の目的といえる。これは明治の改革期に福沢諭吉が『文明論之概略』で「活動を逞しくする」「気風を活発にする」・・・等々の日本を文明国に変える精神や渋沢栄一の「道徳経済合一説」に通ずることは、「改革」に向かう現在の視点からも興味深い。
真のプロフェッション
この考察をとおし、リーダー・フォロアー共に真のプロフェッションの意味が問われる。David H. Maisterは『True Professionalism』でプロフェッショナリズムとは
- 能力技量ではなく、他者に心を配る品性
- 感動と情熱
- 顧客の力になることを誠心誠意欲すること
- 未知の領域に踏み込む精神⑤真の最高位を目指して生きる
と定義し、あとから金銭は追従するものとまとめている。最後さらにプロフェッションを総括するなら、
- 「初発のAmbivalent(相反するもの)の可能性・力」
であり、内部崩壊と戦いながら
と考える。
振り返って伊藤忠太を思うと、西洋と日本、芸術と工学のAmbivalent(相反するもの)の可能性との戦いだったのかもしれない。